運命の奴隷

新作レンタル「スレイブメン」を鑑賞しましたので、
本日はこの作品をレビューしたいと思います!

気弱なナルシストのやすゆきは、映像作家志望を
建前にただ自撮りでグチを並べ、道端で出会った
アルバイトの少女に一目惚れしストーキング同然に
盗撮する、そんな自堕落な日々を送っていた。
ところがある時、彼は某国で極秘に開発された
超兵器”スレイブマスク”を偶然手に入れてしまう。
それは装着者の負の感情をエネルギーに変換し、
現実を自由に改変してしまう能力を有していた…
というのがおおまかなあらすじ。

「電人ザボーガー」をはじめとして、日本国内に
おける特撮市場においては、下手に予算をかけた
大作系よりもずっと”ヒーローもの”らしい作品を
製作することに定評のある井口昇が監督と
脚本を手掛けた本作は、現実をねじまげる力を
偶然手に入れてしまった根暗な青年が、その
大いなる力に伴う責任に苦悩し、孤独な戦いを
挑み続けることとなるヒーローアクションもの。

主人公のやすゆきは元いじめられっ子という
生い立ちが原因ですっかりいじけた性格に
育ってしまい、なおかつ親の七光りで何の苦労
もなく出世街道を行く当時のいじめっ子、貴龍の
姿を見せつけられたばかりに、尚更嫉妬を
募らせ、自らの身の上を呪ってしまいます。

悲惨な境遇に加えて「誰しも人間の運命は
最初から定まっている」と自分に言い聞かせる
ように嘯く彼の姿は、少なからず自己投影を
伴い嫌悪感と同時に奇妙なシンパシーを観客に
抱かせますが、そこから面白いのは、彼が変身
マスクを手に入れたところで、単純に何かに
啓発されるようにして正義の心へ目覚めていく
わけではなく、むしろ己の欲望へ忠実なことが
災いし、利を追求した結果、自分自身をも
破滅の状況へ追い込んでしまうということ。

この、やすゆきに与えられた”大いなる力”の
作中での役割、扱い方が本当によくできていて、
「スレイブメン」と化した彼は、自らの運命を
変えたいと願い、惨めな生活には戻りたくないと
渇望する余り、結局は見えざる絶対的な力に
服従している姿は、彼が今まで嫌というほど
付き合ってきた”現実”の構図と全く変化はなく、
その力を行使することによって、かつての
いじめっ子をねじ伏せ、或いは現実そのもの
から排除しようと試みたのならば、それは
彼自身もまた力の魅力に取り憑かれた
卑怯者に成り下がったことを意味しています。

やすゆきの行為により、彼を含めて誰もが
何者にもなれないモブと化したどん底を
這いずることになった瞬間、ようやく「人を
傷つけるのは簡単だが施すのは難しい」
という教えに思わず涙すると同時に、
時として怒りの感情が世界を正しい方向へ
導く原動力にも成り得るのだという熱い展開
へと畳み掛ける手法からは、井口監督が
更に一つ上のレベルアップを果たした、
脚本の練度を垣間見ることができます。

実はここから更に、ヒーローからヒロイン
へとバトンタッチを果たす、あっと驚く
ギミックが組み込まれており、なんと本作
は二部構成となっていたことが明らかと
なるのですが、これ以上のネタバレは控え
後は是非自分の目で確かめてください。

それにしても、メタな多重構造からはじき
出される「スレイブメン」の本当の意味を
知った時は正直鳥肌が立ちましたし、
井口監督恒例「OPの内容と作品内の
展開噛み合わない問題」が「やっぱ
こんな場面本編の中でないって…いや
繋がっちゃったー!?」とかセルフパロ
をも思わせる意外なアプローチ等々、
低予算ながらもオリジナリティを発揮
しつつ、のびのびとした製作態度が作品の
クオリティに直結しており本当に楽しく、
素晴らしいものへ仕上げられています。

井口監督の趣味と思想が爆裂した結果、
「ヒーロー」のみならず「ヒロイン」の
物語へと昇華を果たしている本作品、
特撮ヒーローとして新たな名作が世に
産み落とされたということで、井口昇
ファンなれば文句なしにオススメの一本!
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最高にアブない女

地元でようやく公開された新作映画「エル ELLE」を
鑑賞しましたので、本日はこの作品をレビューします!

成人向けゲーム会社の女社長を務めるミシェルは、
ある白昼に自宅で覆面の男から暴行を受ける。
その後も謎の人物からあらゆる方面の嫌がらせを
受けることで、彼女は自分にごく身近な者が
ストーキングを働いているのではと疑いをかけるが…
というのがおおまかなあらすじ。

多分巨匠と言ってもいいんじゃないかな…とか
そんな微妙な位置にいる、少なくともカルトには
違いないポール・バーホーベン監督の最新作は、
レイプ被害に遭った女性を中心に置いた群像劇
ともサスペンス・スリラーともつかない、これまた
ジャンル分け不能感に溢れた映画な仕上がり。

そもそも主人公である中年女性・ミシェルがまず
レイプを受けるという衝撃的なオープニングとは
裏腹に、彼女はちっくしょー犬のウンコ素足で
踏んじゃったぜ程度のリアクションしか見せず、
その後も警察に相談するわけでも自力で犯人
探しに乗り出すわけでもなく淡々と自社に出勤、
「ちょっと~全然エロが足んないわよ~」とか
3Dエログラフィックにそんなダメ出しをしたかと
思えば、隣人とのさりげない会話で自分に
秘められた思い出したくない暗い過去設定を
小出しに語り始めたりと、通常では考えられない、
尋常でない話のとっ散らかりぶりが凄え!

正直な話、「バーホーベンなら…これもきっと
バーホーベンなら何とかしてくれる!何かが
起こるはず!」というメタな期待がなければ、
イライラを募らせつついつの間に寝てても
おかしくない程度には変なことになってます。
とは言え、パッとしない元旦那、浮気関係に
ある社員、誠実な隣人の銀行マン、仲の
良くないプログラマー、協力的なバイト君と、
話の進行に合わせてきちんと犯人と思しき
人物を点々と設置していくサスペンスフルな
色気の使い方もそれなりにキッチリしていて、
慣れた手腕がなんか逆に小憎らしくて面白い。

後半以降も話はあっちに行ったり、こっちに
行ったりの繰り返しで、まるで出口や着地点が
見えない様相なのですが、トータルすると
「女は子宮だけで物を考えるわけではないが、
残念ながら男にとってはチンポが全てだ」
ってな話になっていて、終わってみればなるほど
女性上位主義なバーホーベンの趣味と思想が
単純に爆裂しまくった話であり、レイプは結局
鬱屈した男の情念が発露した結果の一つに
して、包括的なテーマに組み込まれた一つの
要素に過ぎなかったことがようやくわかります。

下半身の衝動によって男も女も別け隔てなく
密通を行う過程で、それとなく不義に気づいて
いながら見て見ぬふりをする女の優しさ、
それを全く知らずに浮気がバレていないと
思い込んでいる男の徹底したバカさ加減を
対比として浮き上がらせているわけですが、
それとは別に、宗教や信心が必ずしも人間の
純粋さには寄与しないという不信感を踏まえた
上で、多かれ少なかれ人は倫理に関わる罪
を犯しているのだとすれば、刑事上問われる
犯罪者との相違も曖昧で、人間と怪物の間を
隔てる壁は限りなく薄いのだという教えも感じ
取れ、監督の持つシニカルな人生観が全編
の至る所に配置されているように思えます。

質感としては「ミヒャエル・ハネケやデヴィッド・
クローネンバーグが好きそうな題材をもし
ポール・バーホーベンが扱ったら」みたいな
印象を受けるのですが、前者の二人と違って
鑑賞後にイヤ~な後味の悪さを残さないのは、
ラストの半ばヤケクソを起こしたような「これで
いいのだ」或いは「なるようにしかならねえよ」
ってな諦観に「女性に本来備わった強さ」が
加わることで奇妙な化学反応が生まれ、驚く
ほどの爽やかさが高らかな生命讃歌として
歌い上げられているところにあり、ポール・
バーホーベンって間違いなくバカ監督だと
思うんですが、バカも突き抜けるとやっぱり
天才や宝になり得るのだと実感させられます…

そんなわけで、ぶっちゃけた話バーホーベン
作品のファン以外は全く観なくても構わないぞ!
それも、「ロボコップ」とか「スターシップ・
トゥルーパーズ」とかのアクション映画だけを
愛でている奴じゃなくて、「ショーガール」とか
「インビジブル」みたいなほんとしょーもない
作品まで含めて好きなマニアだけ観ればいい!
それ以外の奴が観て「なんだこのクソ映画
クソつまんねぇぞ」とか文句ブー垂れても
観たお前が悪いとしか返せないそんな話だ!

あと、上でハネケ的と書きましたが、主演
女優のイザベル・ユペールについて来歴を
調べてみると、個人的にはハネケ作品の
中で一番好きかもしれない「ピアニスト」
でも主演を張っていたお方なのですね…
そこを踏まえるとバーホーベン流に撮って
みた「嫌な映画」であり、同時にそれだけに
一風変わった趣も感じられて新鮮ですので、
ハネケ系列の精神的にねちっこい話が好きな
人にもそれとなーくオススメしたい作品です。

パワー・トゥー・ザ・ピーポー

新作レンタル「はじまりへの旅」を鑑賞しました
ので、本日はこの作品をレビューしたいと思います!

森に住み、外界との接触を避け、可能な限り自給
自足を試みる究極のナチュラリスト・ベンは息子
たちにサバイバルと哲学の英才教育を施していた。
そんなある時、精神を患い入院していた妻が
ついに自殺したとの報を受けると、一家は彼女の
遺言を果たすべく葬儀への参列を決意するが…
というのがおおまかなあらすじ。

独自すぎるライフスタイルを貫く父親・ベンに
率いられた、知的マッチョな野生児たちが我々の
住む社会へと踏み込むことで様々な体験を得る、
ロードムービースタイルのヒューマンドラマが本作。

主演は「ヒストリー・オブ・バイオレンス」や
「ザ・ロード」といった、ハードすぎる過去や
背景を背負った父親役に定評のある、ナイス
ミドルなイケメン俳優ヴィゴ・モーテンセン。
今回演じているベンに関しても、徐々に
明らかにされていく設定を差し引いたところで
相当気が狂った教育方針を採っているに
違いないはずなのに、あまりに自然体な
演技と根拠のよくわからない自信の雰囲気
から「これこそが人間本来のあるべき姿」
と思わず錯覚してしまうような謎の説得力は、
馳夫さん(以下親しみを込めて馳夫さん
表記とさせていただきますので何卒ご理解
ください)が俳優としてのキャリアを長年
積み重ねてきたからこそ発揮できるというもの。

企業や浪費を悪と見なし、政府にも懐疑的な
姿勢を崩さない馳夫さんはアナーキストとしての
側面も見え隠れするのですが、彼の姿勢を通じ
作品全体のビジョンとしてまず浮き上がってくる
ものとは、果たして「どちらが外側で、どちらが
内側で世界を俯瞰しているのか」という問題。

昼には野山を駆け巡り、ナイフ一本で野生
動物を狩りその日の糧を得て、夜には星々を
見上げながら宇宙の理に想いを馳せる…
そんな生き方は、普段コンクリートに囲まれ
カウチに寝そべりテレビを眺めつつジャンク
フードをパクつく一般人からしたら少なからず
憧れを抱きたくもなる生き方の一つであり、
「自然に生きることが当たり前の姿であって
我々こそが見えない檻に囚われた猿だ」と、
思い込みの輪郭が強まっていくのは確か。

しかし、その前提を積み上げておきながらも
”物語”を破壊しにくるのが本作の面白い
ところでもありまして、ベンの論理とは即ち
極論であり「壊れた時計も日に二度正確な
時間を指す」という言葉通り、全てが上手く
行っていると思い込んでいただけの男の
人生が、次々と破綻していく瞬間を観客は
目の当たりにさせられることとなります。

そこでポイントとなってくるのが、作中でも
明確に言葉として登場する「仏教」の観点
となっておりまして、人間は完璧な生き物
足り得ないし、完璧であると慢心すること
そのものが大きな過ちではあるけれど、
完璧を目指そうとする志は当然あるべきで、
そのための努力も決して無駄ではない
という教えが、ベンと一家の心の邂逅を
通じて染み渡るのが実にありがたい…

本作はあくまで極端な家族をわかりやすく
例として挙げただけで、多様性を大きく
打ち出したい反面で立ちはだかる現実や
社会といった高い壁に対し、個人々々が
”納得”という形で如何に折り合いをつけて
いくかの、市井の人々ならば誰もが抱えて
いる悩みを切り取って見せただけの内容
であり、その意味で言えば突飛な外見さえ
剥いでしまえば、共感と共に自己の内面へと
向かう作品に十分なり得るということです。

家族がテーマのロードムービーと言えば
「リトル・ミス・サンシャイン」、どこか社会に
馴染めない変人家族のドラマと言えば
「ロイヤル・テネンバウムズ」を想起し、
それらに比肩するだけの練度を誇る本作。
馳夫さん主演ならばという理由で観てもきっと
拾い物になってくれる、オススメの逸品です!

これが私の人生の全て

新作レンタル「おじいちゃんはデブゴン」を鑑賞
しましたので、本日はこの作品をレビューします!

かつては中央警衛局に所属していた凄腕の
ボディガード・ディンも、歳を重ねた今となっては
軽度の認知症を患い膝も悪いただの独居老人。
唯一の拠り所と言えば彼を慕う少女・チュンファ
との交流だったが、ギャンブル狂で借金まみれの
父親がトラブルを起こし、彼女も姿を消してしまう。
ディンはマフィア絡みの事件と睨み、少女の身を
案じて頭も足もおぼつかないのに僅かな手がかり
を元に捜索を開始するのだが…というあらすじ。

タイトルの通り日本では「デブゴン」の愛称で
大いに親しまれている往年のカンフースター、
サモ・ハン・キンポーが齢六十を回ってなお
アクション映画主演と監督を兼任した本作品。

所謂ジャンル的には「舐めてた奴が実は殺人
マシンだった」系にあたり、純粋無垢な少女の
命を守るためにそれまで心が汚れきり人生の
意味を失いかけていたおじさんが粉骨砕身する
という大まかなプロット自体も「レオン」から
「イコライザー」等へと連綿と続く安定路線。

そこでキモとなってくるのが、心身ともにガタが
きている老人の主人公がよりにもよってあの
サモハンというところにあって、一見単なる
ぼんやりした好々爺に一旦スイッチが入ると
恐るべき暗殺者へと早変わり、しかも少し
認知症入っているから沸点が非常に曖昧
という絶妙なバランスの取り方が面白い。

作品のプロット自体にも同じことが言えて、
主人公・ディンの視点から語られる彼の
人生の喜怒哀楽とは、その境界線もまた
曖昧であり、どれもが自然な日常の範囲
として描写されるため、孤独に生きる男の
悲哀、少女とのささやかな幸せにホロリと
させられれば、その合間合間に全くわけの
わからないナンセンスなギャグが挟まり、
そして突然襲い来る敵と繰り広げられる
情け無用の残虐バトルと人体破壊表現は、
驚くほどの親しみと同時に何が起こるか
わからない緊張感を賦与するという、所謂
「同時多発感情」の発生に成功しています。

普通なら日常パートをちんたらやられると
じれったく感じて仕方なくなろうものが、
ことサモハンがぼんやりしながら茶碗の飯を
ワシワシ食ってるだけで妙なユーモアが
溢れたと思えば、そんな彼が覚醒した途端
人間の骨を面白いぐらいバキバキヘシ折って
見せるギャップがきちんと作用していて、この
辺りはやはり彼が役者として積み上げてきた
キャラクターとキャリアが最大限に生かされて
いることを目に見える形で実感させられます。

脚本的にはとっちらかっていて、序盤から
撒いておいた伏線が上手く起用しないせいで
まとまりが悪かったり、ほとんどとばっちりの
ロシアンマフィアさんかわいそう!みたいな
展開とか練度の低さも散見されますが、ある
意味ではそんな出来の悪さまで含めて往年の
香港映画を観ているような気になれましたし、
サモ・ハン・キンポー老いてなお盛んな
クリエイティブの姿勢を見ることができました
ので、個人的には大満足でしたし、そこを
踏まえるとやはりブルース・リー等のカンフー
ブーム直撃世代には是非オススメしたい!

ペイントボールゲーム

新作レンタル「グリーンルーム」を鑑賞しました
ので、本日はこの作品をレビューしたいと思います!

その日のガソリン代にも困るような貧乏パンクバンド
「エイント・ライツ」のメンバーが巡業先として
紹介されたのは、ネオナチが集うライブハウス。
演奏を終えさっさと退散というタイミングになって、
運悪くジャンキーの殺害現場を目撃してしまう。
ハウスのオーナー・ダーシーはトラブルを他所に
持ち出すわけにはいかないと、彼らを囲い込み
次第によっては殺人も辞さない態度に出る一方、
バンドメンバーは危機的状況の脱出を試みる。
ネオナチを迎え撃つパンク小僧どもの籠城戦が
幕を開けた…!というのがおおまかなあらすじ。

新進気鋭監督のジェレミー・ソルニエが二作目の
長編映画に挑んだ本作とは、ネオナチ恐怖の
館で思わぬトラブルに捲き込まれたことから、
血みどろの籠城戦を展開させるハメになった
パンクバンドの戦慄を描いた、ジャンルとして
ソリッドシチュエーションスリラーともアクション
ホラーとも言えるなんとも分別の難しい内容。

「ポリシーの問題」なのか「単純に売れて
いないだけ」なのかの境界線が限りなく曖昧な
バンド「エイント・ライツ」の悲惨な境遇の
説明も早々に、貧すれば鈍するとばかりに
小銭のために場末のダイナーで演奏し、
流れ流され一路ネオナチのライブハウスへ。

で、ハーケンクロイツやSSマークに加え、
南部連合旗(奴隷制度が正しいと信じて
やまないネオナチやレイシスト、極右が
好むシンボル)を店内の至るところに掲げ
好んで身につける連中を、迂闊な隙から
敵に回してしまうという展開は、昨今の
「リベラル層をリアルに車で轢き殺す」
連中の過激な実態や惨状を実際に様々な
メディアで目に耳にしているだけに、嫌な
生々しさや臨場感で溢れまくっていますし、
その意味では先見の明もありすぎた
作品と言っていいのではないでしょうか。

ホラー描写における所謂「切り株表現」に
最も気を使ったという、物語の突然の転換点
は実際ものすごく効果的に機能していて、
これまでサスペンス・スリラーとして進行して
いた空気を一気にバイオレンスの雰囲気へ
塗り替えてしまう恐怖と疾走感を有して
いますし、その勢いのままバッタバッタと
「それまで息をしていた生ある人間があっと
言う間にただの肉塊へと成り果てる」過程に
全くの躊躇を感じさせない見せ方も、「マジ
ヤバい」と語彙が貧弱にならざるを得ない
思考停止級のインパクトを叩き込んできます。

作品を組み立てる上で、余計な「時間軸の
組み換え」や「過去回想」の一切をいちいち
挟んでこないのも迅速な進行に一躍買って
いると同時に、パンク小僧ども以外が妙に
殺人に小慣れまくっているのがかえって
ミステリアスな匂いを際立たせ魅力の度合い
を引き立たせているのも実に良い塩梅。

これにはキャスティングの妙味を語ることも
絶対に外すことはできず、急逝してしまった
アントン・イルチェン演じる主人公のパットが
「まるで異世界に迷い込んでしまった」ような、
現世と地獄の架け橋役として実に上手く
機能していますし、イモージェン・プーツが
演じる謎の少女・アンバーが飄々とした
態度でキリング・マシーンとして覚醒していく
姿は、21世紀型のヒロインとして二重丸を
あげたくなる実にプリチーな造形で、大きな
エールと共に今後の躍進に期待がかかります。
何よりネオナチを束ねるリーダー、「悪の
プロフェッサーX」とでも形容できよう
パトリック・スチュワートの怪演なくして本作は
成り立たず、冷静かつ的確に「処分」の計画を
立て実行に移す彼の姿には確かに、うっかり
崇拝してしまい兼ねない悪のカリスマぶりが
遺憾なく発揮されており、「ローガン」で見せた
認知症老人の演技とはまた違った、長年の
俳優生活で培った経験値の重みを見せつけ
絶対的存在として君臨するその姿に拍手!

本編約90分というタイトな時間に詰める上で、
表現をソリッドに削ぎ落としすぎたばかりに
人物相関や表現でわかりにくい部分が散見
されたり、楽屋を意味するという「グリーン
ルーム」が、中盤新たな真相が暴かれる
ことで別の意味を持ち始めるも、ギミック
としてあまり有効活用はできていない等、
必ずしも完成された出来を誇っているわけ
ではないのですが、それら欠点を補って
余りある面白さに溢れた作品なのも確か!

アントン・イルチェンという、唯一無二の
才能がこの世から失われてしまったことは
世界にとって大きな損失ですが、だからこそ
それを心に留めておく意味でも、是非観て
ほしいと願うウェルメイドな一本でした!
プロフィール

T-ZOK@シュガーラッシュおじさん

Author:T-ZOK@シュガーラッシュおじさん
新作映画・新作レンタル作品のレビューを主に行います。
旧跡地「はきだめの犬のはきだめ」

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